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福岡高等裁判所 昭和28年(や)2号 決定 1954年2月10日

請求人 李培白 外一名

代理人 諫山博

主文

請求人両名に対し、各金二千九百五十円宛を交付する。

理由

本件請求の要旨は、

請求人両名は、昭和二十八年一月十九日福岡地方裁判所において請求人李培白に対する器物毀棄並びに右両名に対する爆発物取締罰則違反及び暴力行為等処罰ニ関スル法律違反各被告事件につき、爆発物取締罰則第一条違反及び暴力行為等処罰ニ関スル法律違反の点は何れも無罪とする旨の判決言渡を受け、右判決に対し検察官から控訴の申立があつたところ、同年十月十四日福岡高等裁判所は検察官の右控訴を棄却する旨の判決を為し該控訴棄却の判決は上告期間二週間の経過により確定するに至つた、よつて、刑事訴訟法第三百六十八条に基き、控訴審において生じた費用として、各請求人毎に(一)請求人の出廷日当五回分九百円(二)弁護人の出廷日当五回分二千七百円の半額千三百五十円(三)弁護人報酬一万円以上三口合計金一万二千二百五十円宛の補償を求めるため本件請求に及ぶ、

と言うのである。

そこで、請求人李培白に対する器物毀棄並びに請求人両名に対する爆発物取締罰則違反及び暴力行為等処罰ニ関スル法律違反各被告事件の記録について調査するのに、昭和二十八年一月十九日福岡地方裁判所が各被告事件につき言渡した一部有罪一部無罪の判決に対し検察官並びに請求人両名から各控訴の申立を為したことが明らかである。而して、請求人両名の各控訴申立書はその部分を限定する旨明示してはいないけれども、事柄の性質上又控訴趣意書の記載等に照らし、右控訴は前記第一審の判決中無罪部分即ち主文第三項の「本件公訴事実中被告人両名に対する爆発物取締罰則第一条違反および暴力行為等処罰に関する法律違反の点はいずれも無罪」という部分を除外しその余の有罪部分に対してのみ為されたものと解するのが相当であり、従つて右無罪部分に関する限り請求人両名からの控訴申立はなく検察官のみから控訴の申立があつたものと言わねばならない。然るところ、控訴審たる当裁判所は同年十月十四日言渡の判決において検察官の控訴を棄却し、しかも該判決に対し検察官から上告の申立がなかつたので前記第一審判決中無罪の部分は右当裁判所の判決言渡後上告期間の経過により確定するに至つたことが亦前記記録上明らかである。斯様な場合、請求人両名は右無罪とされた事実の審判に関する限り刑事訴訟法第三百六十八条に基き控訴審において生じた費用の補償を受ける権利を有するものと解すべきところ、本件における右補償の具体的範囲について案ずるのに、前記控訴審における第一回乃至第五回の各公判期日は何れも検察官並びに請求人両名の各控訴の当否につき審理するため開廷されたものであることが前記記録上明らかであり、従つて請求人両名及び弁護人は検察官からの控訴申立の有無に拘らず右各公判期日に出頭(或は欠席)したであろうと認められる情況に在るので、右各公判期日(但し第二回公判期日を除く)に出頭した請求人両名及び弁護人の日当については之を補償すべき限りでなく(尚上記第二回公判期日には何れも不出頭)、結局右補償の範囲は前記無罪とされた事実に関してのみ開かれた同年七月十五日の証拠調期日(公判準備)に出頭した際の請求人両名及び弁護人の各日当並びに右無罪事実に関する弁護人の報酬と言うことに帰着するわけである。そこで、右範囲内で同法第三百六十九条に従い補償の金額を計算すると、各請求人につき、(一)請求人の出頭一回分日当百八十円(刑事訴訟費用法第二条訴訟費用等臨時措置法第三条)(二)弁護人の出頭一回分日当五百四十円(刑事訴訟費用法第七条第一項第三条訴訟費用等臨時措置法第三条)の半額二百七十円(三)弁護人に対する報酬として当裁判所が相当と認める五千円(刑事訴訟費用法第七条第二項)の半額二千五百円以上三口合計二千九百五十円を補償せねばならぬことになる。

よつて、刑事訴訟法第三百六十八条刑事訴訟規則第二百三十四条第二項に則り主文の様に決定する。

(裁判長裁判官 谷本寛 裁判官 藤井亮 裁判官 吉田信孝)

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